相続・遺言

遺言による相続

遺言による相続

【1】遺言の増加

わが国では遺言による相続はきわめて少なかったのですが、近年遺言による相続件数が増加しています。これは,高齢社会の到来, 家族観の変容などの諸要因のもとで、老後の面倒をみてくれる相続人に報いたい、相続後も家族がうまくいくように自分の意思を伝えることなど意識の表われといえます。

公正証書遺言の作成数推移(日本公証役場連合会HPより)


公正証書作成件数推移

【2】遺言の方式性

遺言には民法典に定められた方式に従うこととされています(960条[遺言の方式] )。遺言は、遺言者が死亡後に効力を生じるものであるから(985条[遺言の効力の発生時期] 1項), 遺言者に厳格な方式を踏ませることにより,遺言者の意思を明瞭にさせ、他人の偽造変造を防ぐようにしたのです。遺言が不明確であったり、偽物であれば遺言の効力をめぐり相続人等の紛争を生じかねないので、そうした紛争を未然に防止し、遺言者の真意を確保するため一定の方式を要求したものです。

【3】遺言能力

(1)未成年者

15歳に達した者は単独で遺言ができる(961条)。となっています。
法定代理人の代理は認められず、15歳未満の人は遺言できません。

(2)成年被後見人

事理を弁識する能力を一時回復した時、2人以上の医師の立会いを得て単独で遺言することができます。

(3)認知症の状態で遺言は可能か

上記で示した通り遺言する能力(遺言能力)を有していれば有効な遺言が可能です。遺言能力とは遺言がどのような意味を持つのか、法的にどのような効力を発揮するのかを理解できる能力をいいます。
遺言者がアルツハイマー型の痴ほう症にり患しているため遺言無効となった判例もあります。(東高平成12年3月16日)
このように相続協議の段階で遺言能力があったか否かが問題になることがあります。
これを未然に防止するには、公正証書遺言により遺言されることを強くお勧めします。公正証書遺言では公正役場の公証人と2名以上の証人が遺言作成に立ち会い、ます。遺言能力が無い場合は公正証書遺言は作成できませんし、作成した遺言は公証役場で保管するので偽造・盗難・紛失の恐れがありません。遺言協議においても公正証書遺言であれば、遺言の効力について疑義がはさまれることはありません。

【4】共同遺言の禁止

共同遺言は、民法975条で禁止されていますが、その理由は以下のようなものです。
①遺言の効力発生時期がいつになるか問題になるため。遺言は被相続人の死後に効力が発生しますので、2人以上の共同遺言だと効力発生時期が分かりません。
②遺言者達の意思が相互に制約され、遺言作成の自由が確保が困難であるため。
③遺言者の片方が死亡した場合、遺言を撤回できるのか問題になるため。

【5】遺言の方式ー普通方式

(1)自筆証書遺言(968条)

自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自書し、これに押印することによって成立する遺言です。。証人・立会人は不要です。
①遺言書の自書
遺言書の全文を自書、すなわち手書きしなければならず、ワープロ、パソコン で打たれた場合には、無効とされます。「自書かどうかは、筆跡鑑定や、遺言発見の事情、遺言者と遺言発見者との生前 の関係など諸般の事情を考慮して判断されます。 この点、遺言者が他人の助けを借りて遺言をなした場合、自筆証書遺言として 有効と認められるかが問題となります。判例は、他人による助けが 筆記を容易にするためになされた程度にとどまり、遺言に他人の意思が介入した 形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件をみたし有 効であるとしています。
➁日付の自書
日付は遺言者に遺言当時遺言能力があったか否か(963条)、複数の遺言がなさ れているときにその先後を判断(1023条1項参照)するにあたり、重要な役割を果たします。そこで、判例は、年月の記載だけでは不十分で日の記載まで要するとしています。 したがって、たとえば「平成21年5月吉日」とした遺言は、日が確定できないので、 無効となります。
③氏名の自書
自筆証書遺言の方式として、氏名の自書が要求されているが、これは遺言者が だれであるかを明らかにし、遺言が遺言者本人の意思に基づくものであることを 明らかにするためである。そこで、判例は、氏名の記載は遺言の内容その他の証 拠から他人と区別しうる程度の表示でよいとしている。したがって、遺言者の同一性が明らかになるのであれば、氏または名の一方のみの記載でも自筆証書遺言 として有効と認められる場合がありうるとしています。
④押印
押印についても、方式の厳格性が緩和されている。判例は、押印の機能は、遺言者の同一性と真実の確保および文書が完成されたことの担保にあると解して、 押印には印章を用いなくとも、掛指その他の指頭に墨、朱印等を付けて押捺する こと(指印)をもって足りるとしています。また、判例は、押印の場所についても、 自署名の下ではなく封筒の封じ目に押印したものでもよいとしています。
自筆遺言では、本人が本人の意思で書いたものであることが問題になります。
ビデオメッセージと遺言書記載のビデオ撮影と公的機関に提出した自筆書類など併せて保管されることをお勧めします。
内容についても行政書士等守秘義務のある専門家に相談されることをお勧めします。

⑤ 加除変更の効力
「自筆証書中に加筆・削除・その他の変更を加えた場合、遺言者はその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に 印を押さなければ、その効力を認められない (968条2項)。この規定は他の方式による遺言にも準用されている(982条)。もっとも、これについても多少の方式 の瑕疵は裁判所の認定により有効と認められます。
ある程度、意思が固まってきたら公正証書遺言に変更されることも検討してください。公正証書遺言であれば公証人及び2名以上の証人がそれぞれの目で確認しますので様式的不備はまず起こりません。またそれぞれ守秘義務をもっていまあすので秘密は保持されます。

(2)公正証書遺言 (969条)

公正証書遺言とは、2人以上の証人の立会いを得て、遺言者が公証人に遺言 の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記して遺言者および証人に読み聞かせ、また は、閲覧させて、遺言者および証人が筆記の正確なことを承認した後、各自がこ れに署名し、公証人が方式に従って作成された旨を付記して署名押印する方 式をとる遺言です。
公証人役場で作成するか、公証 人の出張を求めて、病床で作成することもできることになっています(公証57条、18 条2項)。なお、遺言者が署名することができない場合には、公証人がその事由 を付記し、遺言者の署名に代えることができます(民969条4号ただし書)。
従前は、公正証書遺言は、遺言者が、「口頭で」公証人にその意思を伝えなければならず、更に遺言書作成後、これを「読み聞かせ」なければならないとされていました。しかし、民法の改正により、平成12年1月から、口がきけない方や、耳の聞こえない方でも、公正証書遺言をすることができるようになりました。したがって、口のきけない方でも、自書のできる方であれば、公証人の面前でその趣旨を自書することにより(筆談により)、病気等で手が不自由で自書のできない方は、通訳人の通訳を通じて申述することにより、公証人にその意思を伝えれば、公正証書遺言ができることになりました。この結果、もともと口のきけない方も、あるいは、脳梗塞で倒れて口がきけなくなったり、病気のため気管に穴を開けたりして口のきけない状態になっている方でも、公正証書遺言ができるようになりました。そして、実際に、公証人が、病院等に赴いて、口のきけない方の遺言書を作成することも珍しくありません。
また、公正証書遺言は、作成後遺言者及び証人の前で読み聞かせることにより、その正確性を確認することになっていますが、耳の聞こえない方のために、読み聞かせに代えて、通訳人の通訳又は閲覧により、筆記した内容の正確性を確認することができるようになりました。

(3)秘密証書遺言 (970条~972条)

秘密証書遺言とは、遺言者が筆記しまたは第三者に筆記してもらった遺言書 に遺言者が署名し、その証書を封じて証書に用いた障で封印し、公証人1 人および証人2人以上の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨、また遺言書 が他人によって書かれているときは、筆記者の氏名・住所を申述し、次に公証人 が証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載し、終わりに遺言者・証 人・公証人が封紙に署名押印するという方式の遺言です。遺言書は遺言者が保管することになります。
遺言書を秘密にし、偽造変造を防止できますが、実際はあまり用いられていません。公証人や証人にも内容を知られることはありませんが保管を自分で行うと盗難・自然災害等による滅失さらには発見されないなど不都合な点が多いのが原因と思われます。

【6】 遺言の方式(2) 一特別方式

(1)死亡の危急に迫った者の遺言 (976条)

いわば非常事態 での遺言作成であるため、便宜的な手続を容認しています。そのために, 976条4項は,同条でされた遺言は「遺言の日から二十日以内に, 証人の 一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、 その効力を生じない。」と定めると同時に,同条5項は、「家庭裁判所 は,前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なけれ ば,これを確認することができない。」と定めています。

(2)伝染病隔離者の遺言(977条)・在船者の遺言 (978条)・船舶遭難者 の遺言 (979条)

これらについても特別な方式が定められている。